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第6回:夜行列車

マヘシュの料理のことを書いていたら、唾液が口から溢れそうになったぞ。記憶で唾液腺が刺激されたんですね。

さて、ムンバイを離れて深夜発の夜行列車に乗るわけですが、それまでの時間をどう過ごすかというと、女一人で何時間もお茶をするのもつらいので、映画館がいちばん無難です。

今回は数日前に封切られたばかりのRACEという新作を見ました。ヒンディ語なんですが、舞台が南アフリカということもあり、会話の間に少し英語が 挟まれるので、筋を追う分には全然問題なし。ギャグやシャレた言い回しがわからないのは悲しいけれど(泣)。サイフ・アリ・カーン(この方。眉間にしわ、うつむき加減という「影のある」雰囲気が女心をくすぐる・・らしいよ)主演。兄弟の確執をテーマにした都会派サスペンスなのですが、そのプロットを貫くことができず、何の必然性もないお笑いを入れてみたりして、結局は泥臭い田舎芝居になってしまっている。

でも、退屈はしないんですよ、これが。歌あり踊りありでね。ミュージックビデオが連続して流れると思えば、必然性がゼロでも田舎芝居でも、60ル ピーの元は取れるということかな。ビヨンセの胸を膨らませたみたいな、顔もスタイルも完璧な女優さん(この映画では、かなり人気のある女優を3人も起用) が超ミニで現れると、観客席のあちらこちらからピーピーという口笛が飛ぶのだ。

10時過ぎに駅に行くと、広いホールの床は人でいっぱい。通行のじゃまになるほど。大きな荷物と子供たちに囲まれて寝ている夫婦もいる。この光景、 初めて見たときは仰天しましたが、考えてみると、こうなるのもよくわかります。私自身、1時間以上前に来ているわけで、万が一の場合に備えて用心して早く 来ると、お金に余裕のない人にとり、駅のホーム以外に待つ場所がないんですよね。ホームレスもいるのかなあと思うのですが、たまに警官みたいな見回りが来 て、切符を持っていない人は排除されるから、どうなのかな。

私の乗る列車は、まだ電光掲示板に掲示されず、ホームがわからない。急ぎ足で通り過ぎようとする赤帽さんに列車の名前を言うと、さすが!間髪を入れずに「15番!」という返事が返ってきました。

11時を回ると、私にとっては就寝時刻というわけで、ホームに荷物を置いて腰を下ろしたら、すでにまぶたがくっつきそう。ふはふは~となっていたら、

「ちょっと、あんた」

はい?と横を向くと、まあまあ長く生きてきたこれまでの生涯で、はたしてこんな人物と接触したことがあったであろうか?いや、ない!と、思わず反語表現を使いたくなるような男が目の前に。

ホームの床にじかに座っているので、背格好はわかりませんが、折り曲げた長~い脚から推して、180センチはありそう。脚からそろそろと上に視線を 移すと、皺だらけの顔で、頬の肉もべろーんと垂れ下がっている。インド人にしては異様に白い肌なので、顔色の悪さが目立ちます。ほとんど蒼白。灰色の目の 下も袋状に垂れている。白目の部分が血走り、相当きこしめしているか、または酔いが覚めかかったところと覚しき状況です。その上、クシャクシャの白髪のか なりの部分が、変な赤紫色に染まっていたりして。

服装は、元は白であったと思われるが、今はよくわからんグレーじみた色になってしまっているヨレヨレのシャツと、ところどころ穴が開いた、やっぱり 元の色がわからない薄茶色のズボン。一言で言えば、浮浪者の一歩手前。そして、服のところどころに白髪と同じ赤紫のシミがついています。

赤紫のシミについては、すぐに思い当たりました。この2日前、インドではホーリーという春を迎えるお祭りがあったのですが、このお祭りでは、色のついた水を掛け合ったり、顔にぬりつけ合ったりする風習があるのです。

Holidog0423 駅の外で寝ていたこの犬も、色水かけっこの被害者。この男性の白髪と服も、まさにこういう感じに染まっていました。

どこでもお祭りとなれば、それを口実に羽目をはずす人たちがいるわけで、この初老の男も祭日にムンバイに遊びに来て、ずーっと飲み続け、2日後の今日、ようやく「シラフへの道」を歩み始めたといったところでしょうか。

ハニャホニャ?と何か言っているので、ツツツとそばに寄ったら、うひゃー、酒くさ~。それに耐えつつ、耳を彼の口に近づけると、

「どこから来たの?」

思いがけず、きれいな発音の英語でした。芥川龍之介の「父」という短編に「ロンドン乞食」という、一度読んだら一生忘れられない形容が出てきますが、それを思い出してしまった。

「日本です」

ホホオ、とは言うものの、彼のモヤモヤと曇りがちな脳の中には「日本」という情報が見つからなかったようで、

「それは・・中国・・みたいな?」
「ちょっと違うけれど、まあ、そんなもんかな」

「あ、わかった」と、うれしそう。

「韓国、韓国だろ?」
「あ、近くなったね」

ウンウンと一人でうなずき、納得う~!とご満悦。

「で、どこに行くの?」
「ジャルガオンまで。そこからバスでアジャンタに行くの。仏教の壁画を見に」
「仏教徒?」
「う~ん、ちゃんとした仏教徒ではないんだけど、興味あるから」
「ホニャラホニャラには行かないの?大きな仏教のお寺があるのに」

その地名は知らなかったので、ガイドブックを取り出したら、アジア南部に広まった上座部仏教で行われるヴィッパサナー瞑想のセンターがある町として載っていました。そのページを彼に見せると、英文は読めないことが判明。

「ここに書いてあるよ。世界最大のヴィッパサナー瞑想センターがあるって」と言うと、人差し指でトントンそこをつついて、

「ナシークで降りれば行ける」と言うのですが、ナシークまで3時間しか眠れないことになってしまうから、今回はパス。

「あなたはどこまで行くの?」と、たずねたら、またホニャホニャと私が知らない地名を言うのですが、それを言ったとたん、急に眉が曇り、ハッと息を吐いたと思ったら、ガックリと首を落としてしまった。

ありゃまあ、家のことを思い出させてしまったかしら。家では怖い奥さんが待っているのか?

そろそろ乗る車両が止まる場所を調べた方がいいような時刻になったことだし、じゃね、と言って、お別れしました。

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